薬剤師は、医薬品全般について幅広い知識がある「薬」の専門家です。
薬剤師が行っている仕事として、病院や薬局では処方箋による調剤・監査、患者さんへの服薬指導を行います。また、ドラッグストアでは医薬品の説明・販売などを行い、さまざま場所で活躍しています。
そんな薬剤師になるためには大学で最低でも6年は勉強し、薬剤師国家試験に合格する必要があります。薬剤師国家試験の試験内容はお薬の効果だけではなく、化学や物理、生物などの基礎科目や薬の溶け方など薬の動態を勉強します。
勉強することがハードルになっている薬剤師について、病院の薬剤師として10年のキャリアがあり、転職も2回している現役薬剤師の私がどんなメリット、デメリットがあるのかをそれぞれの業種とともに紹介していきます。
薬剤師のメリット
薬剤として働くメリットはどんなことでしょうか?次のようなメリットが考えられます。
- 医療職なのに夜勤がない職場がある
- 年収が他職種よりも高い傾向がある
- 日本全国で職場が探せる
ひとつずつ解説していきます。
夜勤がない職場がある
総合病院や24時間営業のドラッグストアなどは夜勤、時間外での電話呼び出し(通称:オンコール)を避けることができませんが、薬剤師であれば夜勤のない職場を選ぶことが可能です。
病院に就職した場合、医師・看護師・臨床検査技師・診療放射線技師は夜勤が必要な場合が多いです。職場によりますが、薬剤師は夜勤がない場合があります。
田舎へ勤務する必要があったり、一人だけの勤務だったりと条件がある場合は多いですが、ワークライフバランスを整えることが可能です。実際に私も病院で働いていますが、夜勤はありません。深夜割増賃金で働くことはできませんが、ワークライフバランスを重視している人にとって、夜勤がないことは大きなメリットです。
年収が他職種よりも高い傾向がある
薬剤師のメリットとして、年収が他職種よりも高い傾向があります。
2023年公開(2022年調査結果) 男女別平均年収
性別 | 年収 | 平均年齢 |
男女計(全国平均) | 583.4万円 | 41.1歳 |
男性薬剤師 | 637.1万円 | 41.5歳 |
女性薬剤師 | 540.1万円 | 40.9歳 |
引用:マイナビ薬剤師「最新版!全国の薬剤師年収ランキング」
2023年の平均年収は414万円、年収中央値は360万円。
引用:オフィスのミカタ「平均年収ランキング2023」
2023年の全職種平均年収が414万円なので、2023年に公開された薬剤師の年収583万円と比較すると薬剤師は年収が高いことがわかります。
ただし、年収に関しては注意が必要です。病院や調剤薬局では役職手当がつくようなポストが限られているため、平均年収は高いものの昇給はむずかしいという面があります。
将来、年収を上げていくためには管理職へ出世したり、転職をしたり、独立をしたりなど大きなアクションが必要であることは覚えておきましょう。
また、薬剤師は専門の資格を取ることも可能です。がんの専門薬剤師や感染症の専門薬剤師になることができます。専門資格を取ると昇給する職場もあるため、就職時には条件の確認が必須です。
日本全国で職場が探せる
薬剤師の大きなメリットとして、日本全国で職場をさがせることが挙げられます。人生において、大きな転換点をむかえることが起きます。結婚や介護などは人が住む場所を変えないといけない大きな転換点です。
どうしても住む場所を変えなければいけない時、薬剤師であれば仕事の内容を大きく変えずに転職がしやすいです。全国を対象に就職でき、職務内容が大きく変わらないことは薬剤師の大きなメリットです。薬剤師の転職サービスをインターネットで確認すると、47都道府県どこでも求人を探すことができます。
また、全国に展開しているドラッグストアなどのチェーン店であれば転職せずに異動願いをだすことも可能です。日本全国で職場を探せることは薬剤師の大きなメリットです。
薬剤師のデメリット
薬剤師になるまでが大変
薬剤師になるためには6年かけて薬学部のある大学に通い、さらに国家試験に合格しなければいけません。私立の大学では国家試験に加えて卒業のための試験を設けているところが多いです。
そのため6年間大学に通い、必要な単位や研究をして卒業できるようになっていたとしても、試験で落とされて卒業延期になってしまうことがあります。また、6年間学校に通うために学費がかかることも薬剤師になるまでが大変な原因のひとつです。
大学に6年間かかる場合の学費は下記のとおりです。
大学種類 | 薬学部の6年間学費 |
国立大学 | 約350万円 |
公立大学(県内・市内) | 約336〜350万円 |
公立大学(県外・市外) | 約350〜378万円 |
私立大学 | 約920〜1,439万円 |
引用:医学部受験ノート「薬学部学費ランキング」
私立で6年間通うと最高で1,439万円の学費がかかります。薬学部では同一学年の留年が2回までなど留年に制限体制をとっている大学もあるため、薬剤師になるために大学で勉強し、進級することが必須です。
薬剤師になるには努力を続けなければいけません。
資格を取るのが大変
大学を卒業できたとしても国家試験に合格しなければ薬剤師になることができません。薬剤師の国家試験合格率は68.43%です。苦労して大学を卒業できたとしても、国家試験で不合格になる可能性があります。
引用:旺文社教育情報センター「第109回薬剤師国家試験結果」
第107回薬剤師国家試験(2022年)では下記すべての基準を満たした人が合格でした。
- 全問題の得点が434点以上
- 必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上
- 禁忌肢問題選択数は2問以下
引用:厚生労働省医薬・生活衛生局「第107回薬剤師国家試験の結果について」
全体で合格点を取得できたとしても、各科目の配点30%以上とらないと不合格になってしまうため、苦手科目を作らない必要があります。国家試験に合格しなければ薬剤師になることはできません。6年かけて合格するために大学で勉強することは忘れないようにしましょう。
拘束が長い職場がある
国家試験合格後のキャリア選択も重要です。職場によって条件が全く違うからです。ここでは実際に臨床の現場で働いた私の経験談から、職場の拘束条件についての違いを紹介します。
まずは「薬剤師であれば全て同一の条件で働けるか?」というと、違います。理由は薬剤師が病院や薬局、ドラッグストアなど働く職場で求められている技術や対応が違うからです。
ドラッグストアの24時間営業店舗であれば夜勤があります。病院は救急対応やオンコール対応によっては夜勤や当直があります。薬局も時間外のオンコール当番を頼まれることがあります。
資格を取るためには症例が必要な場合があります。もし、どうしても専門家として資格を取りたいのであれば、職場の条件として夜勤や当直を避けるよりも症例を扱っている病院かが最優先になります。そのため、自分が取りたい資格に必要であるならば、職場環境ではなく、症例があるかを意識して職場に飛び込むことが必要です。
このように、職場によって求められる薬剤師の条件が異なれば拘束時間も異なるので、自分のライフプランに合ったキャリア選択をおすすめしています。
業種別薬剤師のメリット・デメリット
調剤薬局
調剤薬局のメリットは地域医療に貢献し、患者さんの薬剤についてトータルでサポートできることです。薬局薬剤師の制度の中にはかかりつけ薬剤師制度があります。かかりつけとなる薬局の中で担当の薬剤師を指名できる制度です。
対応してくれる薬剤師を固定し、顔見知りになることで薬の相談をしたり、副作用の心配を相談できたり、サプリメントの飲み合わせを気軽に聞けたりできます。一人の患者さんを総合的に診れるため、医療の伴走をしたい人にはおすすめです。
デメリットは薬剤が病院に左右されやすいため、専門の病院前の薬局は知識が偏りやすいです。私の経験上、業務で関わった薬剤ほど理解が深くなります。薬局が専門の病院しか対応していない場合、業務としてかかわれる薬剤の範囲が狭くなります。
幅広い知識をつけるためには、ある程度規模が大きい薬局に就職することがおすすめです。
ドラッグストア
ドラッグストアで働く薬剤師のメリットはセルフメディケーションという、予防という観点で地域住民の方と関われることです。最近は調剤薬局を併設するドラッグストアも増えてきました。そのため、ドラッグストアの販売員としての役割だけではなく、調剤薬局の薬剤師としても活躍できる場が多いです。
また、ドラッグストアで働く薬剤師は他の職種に比べると年収が高い傾向があります。セルフメディケーションの勉強がしたい人にはドラッグストアの薬剤師はおすすめです。
デメリットはワークライフバランスが崩れやすいことです。ドラッグストアは年中無休や、24時間営業している店舗が存在します。そのため、仕事時間が不規則になることがありやすいです。
また、調剤薬局の施設がない店舗に配属されると医療用薬剤についての知識がつきにくいこともデメリットです。自分にあっている職種か、しっかりと判断する必要があります。
病院薬剤師
病院薬剤師のメリットは病院のなかで働けることです。病院のなかで働くため、看護師や医師などと直接やり取りをするチーム医療に参加することができます。医療者と協力して働くことで、看護師の立場や医師の立場を学ぶことが可能です。
また、プライベートではさまざまな職種の人と仲良くなれます。私も病院に勤務する中で、被災地の支援であったり、バイタルチェックの実演だったりを学ぶことができました。他職種と連携できるのは病院薬剤師の大きなメリットです。
デメリットは、夜勤の可能性があることと給与が低いことです。病院は24時間365日対応しているところも少なくありません。夜勤で調剤や監査をしたり、日中のサポートをする業務が必要な職場があります。
また、薬局薬剤師やドラッグストアの薬剤師に比べると給与が低いです。病院薬剤師の給与を上げるためには薬局長など管理業務にポストに就く必要があります。病院薬剤師のメリット・デメリットを理解して就職する必要があります。
公務員
薬剤師は公務員になることも可能です。国家公務員や地方公務員として働くことができます。国家公務員としては、厚生労働省の総合職で働いたり、希少ですが麻薬取締官として働くことも可能です。
地方公務員としては、都道府県庁や保健所、公立病院、衛生研究所など各自治体によって勤務先や仕事内容が異なります。公務員薬剤師になるメリットは安定性があり、長期目線で昇給していくことです。公務員と同じ待遇なので福利厚生も充実しています。
デメリットは募集が少ないことです。公務員薬剤師を目指していた私の友人はその年に狙っていた自治体の募集がなく、泣く泣く他の自治体へ応募していました。年によって募集人数が異なるので、自治体側の都合が大きくかかわります。
まとめ
薬剤師のメリットとデメリットについて解説しました。全体的な薬剤師のメリットとして夜勤がない職場がある、年収が高い傾向がある、日本のどこでも就職できることが挙げられます。
全体的な薬剤師のデメリットとしては薬剤師になるまでが大変で、資格を取るまでハードルが高い、拘束が長い職場があることが挙げられます。自分に合った職場探しをしていきましょう。
また、業種別薬剤師のメリット・デメリットについて解説してきました。この記事を参考に自分に合った薬剤師の職場を目指して、日々の勉強を頑張りましょう!
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